本橋信宏先生との出会い(1)

 昨年の川越高校同窓会の折に、ある人物から声をかけられた。本橋信宏先生であった。私は特に高校時代の面識記憶がなかったが、同窓生の彼は私を覚えていた。私はバレーボール部で彼は文芸部だった。

 彼はかなり有名な作家になっていて(其れ迄私が知らなかった)、数年前にネットフリックスで全世界配信された映画「全裸監督」の原作者であった。私はそれを観ていなかったが、1980年代「AVの帝王」と呼ばれた村西とおる監督の半生を描いたものであることは知っていた。俳優は確か山田孝之。

 川越プリンスホテルの宴会場で彼が声をかけてきた内容は、「あなたは図書館で昼休みや夕方によく本を読んでいなかったですか?」という問いだった。その同じテーブルに辛坊治郎が和服姿で座っていて人だかりが出来ていた。しかし本橋先生は静かだった。先生からそう問われて一瞬過去の記憶を辿っていた。確かにバレーの部活の後と、昼休みに1人図書館で過ごすのは好きだった気がする。実際行ってた記憶が甦る。「何の本を読んでいたのですか?」「うーん、そう言えば志賀直哉全集を順番に読んでたなあ。それとヒラリーとかの登山家の読み物も多くを読んでいた記憶がある」そう言ったら「志賀直哉か、渋いですねえ」と先生は言った。

 続けて先生は、「部活の後、図書館で1人夕陽に当たりながら静かに本を読んでいた坊主頭の人はあなたではないですか?」と言うのである。そうかも知れないのが半分、そうではないというのが半分。でも私は、「多分私だと思う」と答えてしまった。どちらでもいいことではあったから。

 彼はそのことを2、3日後フェイスブックに掲載した。そのままを引用する。

 「いつも昼休み、図書館で本を読む学生がいた。長身で端正な顔。共学なら、女子が廊下で鈴なりになったことだろう。あの男子は誰だったのか。先日の同期会で、それらしき人物に声を掛けたら、当人だった。バレー部のエースで、慶應ボーイになり、紆余曲折だったとのこと。青春の謎が一つ、解けた」

 なんか恥ずかしい様な内容なので、この辺りにしておく。

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